播磨のたたら

 奈良時代初期に記された「播磨国風土記」によると、現在の宍粟市千種、一宮の両町と佐用郡佐用町の計3か所で「鉄を生ずる」との記述があります。とくに宍粟市北部では、花崗岩類に含まれた、純度の高い砂鉄「真砂(まさ)砂鉄」が採れたため、古代から鉄の生産が行われていました。「真砂砂鉄」はその質の良さから、岡山・備前の刀匠に好んで使われていました。

 たたら製鉄が全盛期を迎えたのは、江戸時代。貴重な鉄の生産地であることから、宍粟市千種町のほぼ全域が天領とされ、幕府が管理する事業になったためです。その頃、「鉄穴流(かんななが)し」という画期的な砂鉄採取方法が導入されました。これによって、より大量の砂鉄を採りだすことができ、採取した砂鉄は木炭で燃やすことで還元され、鉄が生み出されました。

 「砂鉄七里に炭三里」という言葉があります。「砂鉄は20~30㎞先からでも運べるが、木炭はかさばるので運搬費がかかり、遠くても10~12㎞以内から運ばないと採算が合わない」という意味です。生産拠点に近い場所でしか木を伐採できませんが、たたら製鉄を5、6年も続ければ周辺の樹木は切り尽くされてしまいます。そうすると「鉄山師」または「たたら師」と呼ばれた職人たちは、拠点を移して鉄生産を続けました。雑木は20~30年もすれば、木炭にできるまでに成長します。職人たちは、豊富な森林資源を背景に場所を転々としながら、鉄の生産を続けました。

 最盛期は、家族を含めて200~300人程度が一つの集団となって動いていたといい、明治初期、西洋から溶鉱炉で鉄鉱石を溶かす技術が伝えられるまで、たたら製鉄は連綿と受け継がれていきました。

 「鉄穴流(かんななが)し」で鉄の生産量はアップしましたが、大量の土砂も発生させることに。土砂は千種川に流され、泥土が水田に流れ込むなど農業の妨げになりかねません。このため、鉄穴流しを行うのは、秋の彼岸から春の彼岸までの農閑期と取り決められた半面、農民の冬仕事として貴重な収入源にもなりました。

 古代から長い時間をかけて千種川河口まで運ばれた土砂は、やがて広大な浜地を形成することになりました。その土地を利用し、播磨の一大産業に成長したのが赤穂の塩田です。


たたらの里学習館


 県境の山々に囲まれた、千種川の源流の一つ・天児屋川のほとりにあります。展示室の中央には、同館に隣接する「天児屋鉄山跡」遺跡の模型を配置。地元で採れた鉄で鍛造された刀、農工具などを展示しているほか、たたらの歴史や製造工程を分かりやすく解説したパネルやビデオもあります。

宍粟市千種町西河内1048‐38
0790‐76‐3833

開館時間 9:00~17:00

休館日 毎週水曜 12月1日~翌年3月31日

入館料 一般 200円 中・小学生 100円



天児屋鉄山跡(兵庫県指定史跡)


 整然とした石垣で、製鉄の工程ごとに区画されていた様子がうかがえる天児屋鉄山跡。南北300m×東西200m。高殿跡の炉部分には深さ約4mの地下構造が設けられ、排水や防湿が施されています。


荒尾鉄山跡(宍粟市指定史跡)


 たたらの神様である「金屋子(かなやごの)神」が天から舞い降りたとの伝説が残る宍粟市千種町岩野辺字荒尾。その集落から川沿いに500mほど登った山中に、石垣が残っています。天児屋鉄山跡と同じく、工程や使用目的によって区画された製鉄施設の跡です。さらに約300m上流に、この地に降臨したという「金屋子神」の祠跡があります。


高羅鉄山跡

 

 宍粟市千種町河内にありましたが、今は田畑が見られるだけで往時の面影は残っていません。ただ、鉄山跡近くを流れる川の斜面には苔むした墓石が200基余り残っており、たたら職人やその家族のものと思われます。少し離れた所には、鉄山を経営した大坂の泉屋(住友一族)が発起し、1854(安政元)年に建立された供養碑に「高羅鉄山」の文字が見られます。


森の上鉄穴流し場(宍粟市指定史跡)


 宍粟市千種町西河内の川のほとりに幅約1mの水路跡が整然と残っています。水路とそれにつながる数か所のため池に、砂鉄を含んだ土砂を流しました。比重が軽い土砂はそのまま流れ、砂鉄を含んだ比重の重い土砂は池の底に沈殿します。これを何度か繰り返すことで砂鉄の純度を高めました。


「金屋子神 降臨の地」の碑


 千種町岩野辺の国道沿いに立つ「金屋子神 降臨の地」の碑。「金屋子神祭文」によると、金屋子神が天上から、播磨国志相郡岩鍋(現・宍粟市千種町岩野辺)に降り立ったとされています。その後、金屋子神はもともと西方に縁のある神様ということで、シラサギに乗って出雲国に向かったとのこと。碑は、その伝説を今に伝えています。


                    写真はいずれも「宍粟市教育委員会より提供」

まるっと西播磨ストーリー

兵庫県西播磨地域(相生市、たつの市、赤穂市、宍粟市、太子町、上郡町、佐用町)の魅力あふれるストーリーを紹介いたします。

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